加藤賢一 データセンター

プラネタリウム

W章 天文台と大型映像


22.プラネタリウム


1.はじめに

2.プラネタリウムの投影活動

3.投影スタイル

4.プラネタリウムのハ−ド

5.ハ−ドを選択する場合の留意点

6.ハ−ドの維持管理と老朽化


7.プラネタリウムのソフト

8. プラネタリウム界の実情

98年3月23日

筆者が業務の一部としているプラネタリウムについて概観する目的でまとめたが、未完状態である。


22.プラネタリウム


1.はじめに
 プラネタリウムは丸天井(ド−ム)の内面をスクリ−ンとし,ここに太陽・月・惑星・恒星像を投影して疑似的に星空を作りだし,それを手段として宇宙について説明してくれる装置(あるいは施設をさすこともある)である.本機を中心に,天体写真や説明図などの画像を投影するスライド映写機やビデオプロジェクタ,高性能の音響機器など各種のAV機器などから成り,よりドラマチックな演出をすることができる.ド−ム内床面には50席から500席程度の観客席が設置される.このような恒久的な設備のほかに,組み立て式や移動型の簡易型プラネタリウムもある.
 プラネタリウムは星空や天体運行の解説をもっとも得意とするが,それに加え,付属するAV機器や多数の観客を収容できる集会機能を活用して映画会に使用したり,劇場,会議場,講演会場,パ−ティ−会場等々へと多目的に使用されることもある.また,最近では大きなド−ムスクリ−ンを大型映像の上映にも利用する館も増えている.投影中に大型映像シ−ンを短時間挿入し,プラネタリウムの補助投影器として用いている館もある.レ−ザ−ショ−を試みたり,ビデオ映像のマルチ画面を取り入れたりと,プラネタリウムは多角的な展開を見せている.つまり、プラネタリウムは天文教育のための教具という性格と、娯楽性とを併せ持った装置と言うことができる。この2つの特徴がプラネタリウム事業を非常に幅の広いものにしており、大きな集客力を持つゆえんである。また、展示に比べて変化を持たせることができる機動性(投影ソフトを交換すれば新しい演目の投影ができる)があり,それらを活用した広報宣伝効果等も集客に貢献している.高価な設備にもかかわらずプラネタリウムを導入しようと科学館の設置者が考えるのはこの集客能力に期待するからに他ならない。章末資料に見るように,わが国では海外諸国よりも学校への導入率が低く,教育効果よりも娯楽性を重視して集客をはかろうという社会教育ならではの経営戦略がうかがわれる。なお、最近では天文教育の他に情操教育や環境教育への貢献も期待されている.幼児や小学校低学年対象のプラネタリウムは音楽や絵や物語を中心に展開されており,天文知識の普及というよりは情操面への訴えかけが中心である。また、宇宙からの視点は地球環境を
よりよく理解することに直接つながってくるため環境教育への貢献も大きいと考えられている.

2.プラネタリウムの投影活動
  プラネタリウム事業の中心は日々の投影活動である。大都市の大型館では1回50分ほどの投影を1日4〜7回というのが普通で,小さな館では休日だけといったところもあり,学校では不定期とさまざまである.教育センタ−などでは児童・生徒向けの学習投影しか行なっていないところもあり、投影の回数や内容は館の条件や目的によって大きく異なっている.
  投影プログラムは見学者の年齢層や関心度,あるいは館の教育目的などを考慮して各種用意されている.大別すると


  一般投影
  学習投影
  特別投影

である.一般投影は大人も含めた幅広い年齢層を対象としたメインのプログラムで,その夜に見える星空や天体の解説と特別テ−マの紹介から構成されるのが普通である.学習投影は主に小中学生を対象とし,学校教育のなかで定められたカリキュラムに添って行なう投影のことで,理科学習の一環として学年別に行われることが多い.特別投影は音楽を主体にしたり,さまざまな趣向を懲らして不定期に行われるイベント的プログラムのことで、幼児を対象とし,星空への導入作りを主目的とした幼児投影を含めることもある.
 これらの投影は入場者の動向を見てさまざまに組み合わされる.学校団体の多い平日の午前中は学習投影,たなばた前後には幼児投影,平日午後や休日には一般投影,夜の最終回や他のイベントに合せて特別投影といった具合である.

3. 投影スタイル
1)生解説と自動解説
 プラネタリウム投影は星空,音声解説,音楽,映像といった映像ソフトを時間の流れにしたがってスト−リ−を持たせて順次提示することで成立している.その操作にどのように人間が介在するかによって生解説(ライブショ−)と自動解説(オ−ト)に便宜的に分けることができる.多少の誤解を恐れずに断定的に言えば,解説を肉声で行うのが生解説,それを録音媒体で行うのがオ−ト解説である.
 生解説では担当者が直接観客に語りかけるため,観客の反応を見ながら解説内容を変えることができる.機器操作を手動で行うような場合には星空や他の映像さえその場で変更できるという柔軟性を持っている.その反面,自動解説に比べ再現性が悪く,解説内容が担当者の力量だけでなく体調や気分にも左右されたり,一般に地味な映像展開しかできないといった欠点がある.その日の夜空を解説するような場合や,児童生徒の反応や理解度を確かめながら進める学習投影などでは生解説が有利である.東京の五島プラネタリウムや明石市立天文科学館などは生解説を伝統的に踏襲している。
 一方,自動解説は映画に類似しており,解説内容や動きはあらかじめ制作されたプログラムに従って展開される。そこにはアドリブの入る余地はない。始動スイッチの押下により毎回同じ内容が流れるため、担当者に特別な専門的知識は要求されないし、無人でもよい.投影に供する映像や音楽、それらを展開するためのプログラムは事前に相当時間を費やして制作されるため,生解説に比べ多彩な映像展開が可能で,完成度は高い.他館で制作されたものを移植するのも容易である.したがって,一般投影や専門職員がいないような館でよく採用されている.東京のサンシャイン・プラネタリウムが典型的な自動解説を採用している。しかし,利点は逆に欠点でもあって,特に柔軟性に欠けるのが最大の欠陥である.一度制作されたものは修正がむずかしく,観客の反応を見ながら逐次的に改良を加えるとか、当日の珍しい天体現象を紹介するといった生解説ではいとも容易なことが不得手である。
 そこで、最近では自動と生の両者をミックスした半オ−ト解説とも言うべき形態が増えている.たとえば,前半は生解説でその日の夜空を紹介し,後半は自動解説のテーマ紹介に切換えるというような使い方である.あるいは,映像や音楽の進行はあらかじめプログラム化してオ−トで走らせ,解説だけを肉声で行うといった形態もある.両者の良いところを使っていこうという動きであり,ますます増えていくものと思われる.大阪市立科学館や名古屋市科学館はこの方式である。
2)投影スタイルの変遷
 1920年代に現代的なプラネタリウムが発明されて以来50年ほどは解説と言えば生解説であり,担当者が機器の操作をしながら語るというスタイルであった.この場合,解説の善し悪しはほとんど解説者のタレント性にかかっていた.1970年代、小規模館にもプラネタリウムが普及し始め,専門の解説者を必要としないオ−ト機が開発されるようになり、やがて、コンピュータの高性能化・小型化によってメカトロニクス製品としてプラネタリウムは一新されることになった。こうして誰でもできるプラネタリウムとして登場したオ−ト機であったが,間もなく,旧来の手動式ではできない複雑な演出も可能なことが明らかになり,単に解説者が不要というだけでなく,手動式にない新しい可能性を秘めたプラネタリウムとして市場に出回るようになった。オ−ト機の開発では五藤光学研究所とミノルタプラネタリウムというわが国の2つのメーカーの貢献が大きい。こうして多角的な演出が可能となったオート式プラネタリウムの普及により,映画的スタイルの投影が増えていった.なお、1980年代には次に述べるディジスターのようなビデオ画面を直接投影する非機械式プラネタリウムも登場したが、これも基本的には自動解説方式である.万能機と思われたオート式プラネタリウムであったが、自動解説ではその日の夜空の紹介ができないとか,人間味が薄れたといった批判が出たため,1990年ごろから生とオ−トの融合といった路線が生れてきたのである.

4.プラネタリウムのハ−ド
1)ハ−ドの構成
 プラネタリウムは,
 ・本機および周辺機器
   プラネタリウム本機
   補助投影機
   音響機器
   制御卓
   それらを総合的に制御する制御部
   電源部
 ・ド−ムスクリ−ン
 ・椅子
 ・室内照明
 ・空調設備
などのハ−ドで構成されている.
2)本機
 プラネタリウム本機は星・太陽・月・惑星の投影を主に受持つ部分で,鉄亜鈴型の外観を思いうかべる人が多いだろう.蟻のお化けのような鉄亜鈴型プラネタリウムはドイツのツァイス社のデザインによるもので,きわめて特徴的な外観である.しかし,最近ではさまざまな形が採用されるようになっている.中でも星の投影部と太陽・月・惑星の投影部を分離したものは観客の視界に邪魔にならない点で有利である.本機によって天体の日周運動,年周運動,緯度変化,歳差運動等が再現されるが,これらの運動を歯車等を用いて再現するのが従来の機械式プラネタリウムで,コンピュ−タ・グラフィックス(CG)の技術を用いて星空や運動をビデオ画像として作って投影する非機械式もある.この方式のものとしては現在、エバンス・アンド・サザランド社のディジスターだけが販売されている。また,星の再現でも,ピンホ−ル式,レンズ式,グラスファイバ−式、CG方式など種々の方法が工夫されている.
 これまでのプラネタリウムでは地球に視点を置き,地球から見た星空と運動を再現するというのが常識であったが,新たに宇宙型と呼ばれる方式が登場し,視点を太陽系全域に移動させることができるようになった.たとえば,火星から見える星空と運動を見せることができるのである.また, CG方式では太陽系を離れることも可能で,たたとえば,こと座のベガから見た星空が再現できるといった具合である.
 本機の制御は,操作員が手動で行う手動方式,あらかじめプログラムされている自動式に大別される.最近の大型機では手動でも自動でも操作できるようになっている.
 このように種々の機能が選択できるのはユ−ザ−にはありがたいことだが,一方,館の運営方針やプラネタリウムの使用目的を明確にしないと奇妙な選択をすることにもなる.
3)補助投影機
 補助投影機は本機に欠けている機能を付加するもので,スライド投影機やビデオプロジェクタ,流星投影機などのことである.本機もそうだが,特に補助投影機はプラネタリウムの仕様目的や投影のねらいによって装備するものや仕様が全く変ってしまうので注意を要する.また,補助投影機が大量になると騒音や光漏れ,配線などに問題が発生し,ド−ム内に設置するのが困難となる.そんな場合はド−ム外に補助投影機室を作って収納する.この部屋をプロジェクション・ギャラリと呼んでいる.大量の補助投影機を人力で操作することがむずかしい時にはコンピュ−タを介した制御装置を付加することがある.スパイス・システムに代表されるこのような補助投影機の制御システムは各種開発されている。
4)その他
 制御部や電源部は通常ド−ム外に設置されるものなので,そのスペ−スを確保しなければならない.ド−ム内壁スクリ−ンの材質や仕上精度などの特性も投影目的(たとえば,全天映画を併用するのかどうか,併用するならどちらを優先させるのか,音響重視か等)によって決ってくる.

5.ハ−ドを選択する場合の留意点
1)プラネタリウムの使用目的
 プラネタリウムに何をさせたいのか,また,収容人数,投影回数,維持管理の予算等によって本機を含むハ−ドはおのずと決定される.中でもプラネタリウムの使用目的が重要である.これが曖昧では仕様の決めようがない.たとえば,学校教育の補完と決定すればド−ムサイズは100名程度の収容能力があればよいし,それで本機の性能も限定され,補助投影機の種類,椅子の仕様などもほぼ決定される.大都会で収容能力を400名と設定するなら,学年別の学習投影などは難しいであろうから,一般客に狙いを定めて機械を考えることになる.もし全天映画を併設するなら,床は傾斜式で,座席は一方向,スクリ−ンの反射率はプラネタリウムには不利なように低めに設定されるため、星空の映写能力は相当犠牲にしなければならない.
 当然と言えば当然だが,プラネタリウムの使用目的を明確に設定することがハ−ド選択の第一段階である.この点を強調するのは,目的が必ずしも明確でなく,何でもできるようになどと妙に欲張って失敗している場合があるからで,一度機械を設置してしまえば容易には更新できないのであるから,慎重に検討していただきたいと思う.
2)ド−ムサイズ
 ド−ムサイズは見学者の収容能力だけでなく,本機,補助投影機,ひいては維持管理費,人件費等運営全般にわたって関係する重要な量である.収入とも結びつく量でもあるだけに設置前に慎重に入場者数を見込み,決して甘い評価をせずにド−ム径を決定することである.ド−ムが大きくなると座席が増え,機械は大型になり,電球は大きなパワ−が必要とされ,スクリ−ンの清掃や張替えも容易ではない.出入口が増えれば監視要員を増やさなければならない.何かにつけて経費がかさむものである.こうした維持管理に伴う経費と収入の折り合いをどこでつけるかでド−ムサイズが決定される.
 一般に,小中ド−ムは主に教育目的が強く,大ド−ムは多くの見学者を一度に収容することを前提としており娯楽色が加わると見てよいだろう.先ほどの話しの蒸返しで恐縮だが,ド−ム径もプラネタリウムの使用目的で変る,ということである.
3)床面−傾斜式と平面式
従来は平面式しかなかった床面だが、最近では傾斜式を採用している館が増えている.傾斜床は前方の視界をよくするとともに全見学者が一方向を向いて同じ映像に対面する方式として登場した。平面床では地平線が床面とドームとのちょうど境目になって、天体位置が分かりやすいが、傾斜式では視界の一部が欠けるため天体高度が実感しにくくなる。そのため、一般に教育用には平面床がよいとされている。最近の20度から30度もの急角度の傾斜床は全天映画との併用や宇宙型プラネタリウムの導入に伴って開発されたものである.どちらの方式も一長一短で,あらゆる目的に対応できる方式は見当らない.
4)椅子の配置法
椅子の配置法もプラネタリウムの使用目的に大きく依存する.傾斜床では一方向に限定されるが,平面床では同心円状,一方向,扇型などを選択できる.

6.ハ−ドの維持管理と老朽化
 プラネタリウムの能力を十分に発揮させてその目的を達成するためには,日常的な維持管理が大切である.本機内部の清掃や点検などは定期的にメ−カ−に依頼する館がほとんであろうが,簡単な清掃や点検,ランプの交換,補助投影機や椅子などの点検修理は担当者の手で進められる場合が多い.全体のようすを見るにもこれは担当者の責任で進めるべきであろう.そして,補助投影機の更新などを含む維持管理計画を策定すべきである.
 投影機(本機,補助共に)には機械部分の摩耗による機能低下という避けがたい問題がある.もちろん,コンピュ−タ画面投影式では摩耗はないが,画面の劣化という別の問題が発生する.これは機械の寿命であり,根本的には更新を考えなければならない.もっともそれは15年以上で,その時には音響部など他の部分も機能低下しているだろうし,老朽化の問題はプラネタリウム全体のものとして考えるべきであろう.
 スクリ−ンは機械的な摩耗はないが,汚れ,反射率の低下,歪みの発生などがある.通常は特に維持管理に神経をつかうことはないが,本機の老朽化に合せて何等かの対策を要するであろう.
 椅子は数が多く,また見学者が直接接するものだけに維持管理には気をつかうところである.見学者に不快感を与えないように努めなければならない.
 音響機器は可動部が少ないだけに摩耗の心配は少ないが,音響特性は経年変化する.ド−ムの音響特性に合せて音源を作ることもあるので,定期点検等に合せて調整しなおした方がよい.老朽化と共に,機器の進歩に伴い現在の機器の投影能力が相対的に低下し,陳腐化することもある.たいがいは補助投影機の追加で凌ぐことができるが,設置から10年ほど経過すれば本機を含めた全般的な機器の更新計画を作成すべきであろう.使用頻度の大きな館では15年前後(学習用ではもっと長い)で更新している例が見受けられるので,これが一つの目安となろう.コンピュータおよびその周辺機器は進歩とモデル更新が早く、10年持てば良い方というのが現状であるから、特に気をつけなければならない。

7.プラネタリウムのソフト
 プラネタリウムの特徴の一つはソフトの交換により種々の投影ができることである.この特徴を存分に生かし,しばしば投影内容を更新し,常に新鮮さを訴えるべきである.とは言え,ソフト交換には手間と経費を要するので,容易ではない.
 投影ソフトは,画像(スライド,ビデオ,パソコン画像など)、音源(テ−プ,CD,MDなど),プログラム(本機用,補助投影機用など)から構成されている.ソフトの交換では,これらの制作、装填,機器の調整,プログラムの修正等を行わなければならない.自動解説用ソフトは画像,音源,プログラムをあらかじめ作成し,それらを交換する.手動解説でも画像,音源は用意しなければならない。しかし,一般に自動用より少なく,装填や調整も簡便である. 音源の一部とプログラムは担当者が持っているというわけである.手動解説でも補助投影機は自動で行うというように中間的な場合もある.自動解説用ソフト交換の作業量は膨大で,1週間ほど休館する館が多い(同時に機器のメンテ作業を行うのが普通).これに比べ手動解説では時間外作業で済ませられる程度である. 自動と生の両者をミックスした半オ−ト解説が採用された要因の一つは自動解説用ソフト交換に要する作業を省くためであった。
 投影ソフトの作成には作画、朗読、音源づくりといった専門的作業が入ってくるため,専門業者に委託する場合が多い.自作するにはそうした専門的技量の他,設備や作業時間も必要である.わが国では外注するのが一般的だが、海外では自作が普通で、大型館ではアーティストやプログラマまで雇用している。その方が内容的にも経費的にもメリットがあるとのことで、わが国とは考え方や状況がずいぶん異なっているようである。

8. プラネタリウム界の実情
 世界にはプラネタリウム館がざっと2000館あると言われている.その地域別比率は図1のとおりで,アメリカ合衆国とわが国が圧倒している.ド−ム系16m以上の大型施設だけで見ればわが国が世界一である.
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 図1
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 日本におけるプラネタリウム館の設置年代を図2に示した.10年ごとの統計で,わが国の経済の高度成長にあわせて増加してきたと言えよう.しかし,1992年以降のいわゆるバブル経済の崩壊後は確実に設置件数は現象傾向を見せており,ほぼ地方都市まで普及したことから,これまでのように年10館ペ−スで増えるということはなかろうと思われる.
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 図2
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 新たに設置されたプラネタリウムをド−ムの大きさ別に見たのが図3で,1960〜1970年代が小型館がほとんどだったのに対し,1980年代には大型館が主になっている.これも経済成長と連動して生れた傾向であろう.
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 図3
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 一方,経営母体を見たのが図4で,地方自治体が圧倒している.財団法人組織や企業体が経営している例もあるが,大都市に限られている.館の経営を入場料収入だけでまかなうことはおよそ不可能で,それがこのような結果になっているのであろう.
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 図4
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さて,プラネタリウムがどのような組織に所属しているかを表1に示した.全世界のプラネタリウムの半数は大学を含めた学校に付設されているが,わが国では20%に満たず,特に大学所有は1つだけである.そして,天文台/その他の項が世界では7%に対し,わが国では50%を占めている.その他には教育センタ−,児童館,文化センタ−,視聴覚センタ−,野外活動センタ−といった館が含まれている。広い範囲に普及しているのがわが国の特徴である.

     表1.プラネタリウムの所属先分布
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 機   関        世界      日本
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小中高校        666(33%)    54(17%)
大学           341(17%)     1( 0%)
博物館・科学館     308(15%)   77(24%)
天文台・他教育機関  148( 7%)   160(50%)
その他・不明      528(27%)    29( 9%)
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最後にド−ム径20m以上の館のリストを挙げておく.統計が見当らないので詳細は分らないが,日本プラネタリウム協会加盟館の実績から推定するとわが国のプラネタリウム利用者は年間750万人程度,解説や投影ソフト制作などに従事している関係者は500〜1000人と見られる.

表2.わが国のド−ム径20m以上のプラネタリウム館
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施 設 名                 県名     径   開設年
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仙台市こども宇宙館      宮城    20.0   1990
秋田ふるさと村        秋田    23.0   1994
日立シビックセンター     茨城    22.0   1990
つくばエキスポセンター    茨城    25.6   1985
栃木県子ども総合科学館    栃木    20.0   1988
高崎市少年科学館              群馬    21.0   1984
館林市子ども科学館            群馬    23.0   1991
浦和市青少年宇宙科学館        埼玉    23.0   1988
大宮市宇宙劇場                埼玉    23.0   1987
天文博物館五島プラネタリウム  東京    20.0   1957
足立区こども科学館            東京    23.0   1993
府中市郷土の森博物館          東京    23.0   1987
多摩六都科学館                東京    27.5   1993
八王子市子ども科学館          東京    21.0   1988
横浜こども科学館              神奈川  23.0   1984
相模原市立博物館              神奈川  23.0   1995
湘南台文化センターこども館    神奈川  20.0   1989
黒部市吉田科学館              富山    20.0   1986
岐阜市科学館                  岐阜    20.0   1980
浜松科学館                    静岡    20.0   1975
名古屋市科学館                愛知    20.0   1962
みえこどもの館                三重    22.0   1989
文化パルク城陽                京都    23.0   1995
大阪市立科学館                大阪    26.5   1989
ドリーム21                  大阪    20.0   1990
富田林市すばるホール         大阪    20.0   1991
明石市立天文科学館            兵庫    20.0   1960
神戸市立青少年科学館          兵庫    20.0   1984
姫路科学館 アトムの館        兵庫    27.0   1993
三瓶自然館                    島根    20.0   1991
倉敷科学センター              岡山    21.0   1993
広島市こども文化科学館        広島    20.0   1980
さぬきこどもの国              香川    20.0   1995
松山市総合コミュニティセンター愛媛    23.0   1987
愛媛県総合科学博物館          愛媛    30.0   1994
北九州市立児童文化科学館      福岡    20.0   1968
福岡県青少年科学館            福岡    23.0   1990
長崎市科学館                  長崎    23.0   1997
宮崎科学技術館                宮崎    27.0   1987
鹿児島市立科学館              鹿児島  23.0   1990
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参考文献
天文教育普及研究会著、教育のためのプラネタリウム、1993年、天文教育普及研究会発行

日本プラネタリウム協会編、スペシャル・エフェクツ(Twilight Special Issue No.1),     1994年、日本プラネタリウム協会発行

日本プラネタリウム協会編、(Twilight Special Issue No.2),199 年、日本プラネタリ
     ウム協会発行

日本プラネタリウム協会編、プラネタリウム・ハンドブック〜解説編〜(Twilight Special
     Issue No.3),1997年、日本プラネタリウム協会発行


−−−−−−−−−−−−コラム−−−−−−−−−−−−−−
3つのコミュニケ−ションの形態と科学館の教育活動

  1)対面的
  2)マスコミ
  3)近代読者 − 送り手と受け手に共通なものがない場合

 このコミュニケ−ションの形態の分類から科学館の教育活動を見ると展示活動は主に3)に位置付けられる.すなわち,展示資料のほとんどは過去のものであり,特に歴史的資料は現在のわれわれが歴史として受入れることしかなく,それを改変することができない.科学館のうち,原理法則を紹介する展示品や歴史的資料の紹介文は2)に属すると解釈される.同時に多数の人々を対象とするも,同時代であるから人々の反応によって提供される情報の改変が行われる可能性がある.一方,教室や展示品の展示品案内などは1)である.
 かつてプラネタリウムで生解説がよいか,自動投影がよいか,の論議があったが,これは単に解説法の違いというより,コミュニケ−ション法に大きな転換をもたらす選択であったため大きな問題になったと見ることができる.つまり,生解説は1)に属し,自動投影は2)に属するもので,この質の転換を迫るものだったと思われる.


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