分光から何がわかる? −分光術の基本に返って−
加藤 賢一(大阪市立科学館)
西村実行委員長と相談し、主に教育面への適用を意識し、表題の発表をさせていただいた。「分光術の基本に返って」のサブタイトルに従い、主に歴史的な発展を辿りながら、分光学の基本原理を紹介した。
2.天体の観測とは?
天体計測の基本は光(電磁波)の検出と計測(測光)であり、それで天体の、@位置情報(座標、外観、形態)、A波長空間情報(分光、色)、B以上の時間変化、を得ることと見なせる。
3.分光学の基本的概念
1)用語 ― 英語のspectrum
はニュートン(1671)が、spectroscopy、spectroscope、spectrograph はW.
Huggins (1860-1870) が最初に使った。
2)波長、色 ― 光の波長を最初に決定したのはFraunhofer
(1821) で、線回折格子を用いた干渉実験によりNa-D 線を5888Aと測定。発光体、受光体の運動による波長のずれはドップラーにより解明(1842)。
3)連続、輝線、吸収スペクトル − キルヒホフ・ブンゼンの実験(1859)
により原理は解明。教育上では「黒い炎」の実験や低圧・高圧ナトリウムランプの実験がよく行なわれている。
4)分解能と分光器の解像力 − 天体に応用するため、さまざまな分散素子、光学系が開発されてきた。
4.スペクトル線の物理
黒体放射、原子構造、量子数といった概念が分光学を通じて確立されてきた。天体、特に恒星はこうした物理学の実験場としても使われてきた。
5.分光学の歴史
天文学への初期の応用という点ではイギリスのハギンスの活躍が大きい。20世紀になり、白色矮星のような量子論的天体の発見がなされ、銀河の世界へ応用されると銀河の後退の発見、その結果として膨張宇宙論が形成される、といったように宇宙観を大きく変革するような発見があった。
6.日本の分光学
日本の天体分光学の導入は1900年頃のことであった。1940年頃から理論的研究が活発化してきて、世界的成果が生み出されるようになった。しかし、それは机上の学問に留まり、自前で観測データを取得し、それを解釈するという本格的研究が行なわれるようになるのは1960年の東京天文台・岡山天体物理観測所の開所以後のことである。
7.分光でわかること
昨年の前原英夫氏の発表に尽きている。(1)物理状態(温度、密度)、(2)化学組成、(3)視線速度、である。また、JAHOUのスペクトルカリキュラム(第10回集録参照のこと)はその授業実践である。
(2006.3.5.、第11回天体スペクトル研究会での発表から)