希土類元素と化学特異星

加藤 賢一(大阪市立科学館)


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 本研究会では化学特異星に希土類元素のスペクトル線が卓越している現象をレビューした。構成は以下のとおりであった。

・化学特異星に見られる希土類元素線の例

・希土類の物理的・化学的特徴

・2階電離した希土類元素線

・元素の拡散説

 化学特異星における希土類元素に関しては最近ベルギーの Biemont やアメリカのBord やといった研究者による2階電離イオンの遷移確率の理論計算が大きな注目を集めている。彼らの結果に基づいて、化学特異星、特に磁場を帯びたCP2に分類される特異星にPr III, Nd III, Eu III, Gd III, Dy III といった元素の線が同定されるようになり、これまで同定のつかなかった強い吸収線のうち相当部分がこうした希土類元素の2階電離イオンによるものであることが分り、スペクトルの謎がほぼ解明されるに至った。これまで既に、そうした未同定線の多くは希土類起源であろうと見られていたが、それが明瞭に示されたのである。また、Kodaira1969年に発表した磁気特異星に見られる連続スペクトルの凹み(4200A5300A6300Aあたり)がこうした希土類元素とCrや鉄の線などの集合体によるものであることも示されて、この謎もまた解明されたのであった。

 この2階電離イオンの線から希土類元素の存在量を調べてみると1階電離イオンから求めた量と大きな開きがあり(極端な例では100倍!)、両イオンが形成される大気層が異なるのではないという考えが登場した。こうした現象は希土類に限らず、クロームや鉄などでも見られるもので、共に層構造を反映していると考えるのである。ところが、2階電離イオン線の解析例は少なく、また求められた遷移確率などの物理常数が本当に適切なものか、吟味が必要であり、本当に層構造に基づく結果なのか、性急に結論を出すべきではないと筆者は考える。

 こうして複雑なスペクトル線の同定がつくと、その起源の解明が最重要課題となる。化学特異星の元素異常を説明する有力な考えは元素の拡散説である。輻射圧を受けやすい元素は浮かび、そうでない元素は沈むという考えで、たとえばヘリウムの欠乏や希土類の過剰などがこれで説明されている。大気の層構造が見えてくれば拡散説の可否の判定に結びつくものであり、今後の動向が注目される。

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