UVESデータからの恒星大気パラメータ決定について
大阪教育大学宇宙科学研究室M1
大西 高司
1. Introduction
A,F,G型超巨星は、C,N,O反応による生成物(First Dredge Up)が表面に運ばれ、組成を変化させている可能性がある。また、NeNaサイクルによる生成物であると考えられるNaが太陽に比べて超過であることが知られている。
今回、ESO(European Southern Observatory)で公開されている高分散分光器UVESで取得されたデータを元にA,F,G型超巨星について組成の解析を行うため、恒星大気パラメータの決定を試みた。(http://www.sc.eso.org/santiago/uvespop/)
2. サンプルの選定
公開されている星の中からサンプルを選定するため、以下の基準で天体を選んだ。
● スペクトル型がA,F,G型であること
● 光度階級がIa,Ib,IIであること
● スペクトルがシャープであり、高分解能であること
● 絶対等級がマイナス1.5等以上であること(HipparcosによるPallaxと実視等級から推定)
採用した恒星は以下のとおり
A型星 F型星 G型星
HD74272 HD75276 HD174383
HD97534 HD74180 HD154365
HD73634 HD108968 HD97082
HD81471 HD54605 HD136537
HD80404 HD101947 HD204075
γCyg HD125809
3. 組成の決定について
組成の決定については、以下の手順で行う。
@ 恒星の大気パラメータを決定する。
(有効温度、表面重力加速度、ミクロ乱流速度、マクロ乱流速度、[Fe/H](金属量))
A 恒星モデルの構築
B 各種吸収線の等価幅測定
C 恒星モデルと各種吸収線の等価幅から組成を決定
4. 有効温度の推定
有効温度の推定には以下のような方法が知られている。
・ Hβインデックス
O Hβ4861Åを中心とした等価幅30Åと150Åの比をモデル大気と比較し温度を決定する方法
・ Hβ―C0
O C1= (u-v) - (v-b)からReddningを補正した値C0とHβを用いた方法
・ IRFM(Infrared Flax Method)
O 赤外域のエネルギー流量を測定し、あらかじめ推定した表面重力加速度、[Fe/H]から求めた恒星モデル大気と比べ、温度を決定する方法
・ Line Depth Ratio
O 励起エネルギーの高い吸収線と低い吸収線のペアを見つけ、その等価幅の比から温度を決定する方法
・ Fe、Mgの電離平衡
O 中性・一回電離の吸収線を測定し、サハの電離式から温度を推定する方法
今回は、Hβ―C0とLine Depth Ratio を用いて温度の推定を行った。
★Hβ―C0から
図1にT.T.Moon et.al 1985から抜粋した図に、それぞれの恒星をプロットした。
(●:A型星、■:F型星、▲:G型星)但し、Photometoryデータが測定されていない恒星については除外した。この図からそれぞれの恒星についてある程度の温度・表面重力加速度の推定を行うことが出来る。
しかし中には、A型星にも関わらず、温度が非常に低く推定されているものもある。これらは、Balmer線の中に輝線が含まれているためHβインデックスが少なく見積もられてしまったためであると考えられる。(図2)
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図1 Hβ―C0(T.T.Moon et al 1985) |
図2 HD97534のHα |
★Line Depth Ratioから
V.V.Kovtyukh et.al 2000から選んだ30組の吸収線を測定し、有効温度を算定した。図3に測定した吸収線の例を示す。
しかし、A型星については吸収線が非常に弱く測定できなかった。これらの星については、Mgなどの電離平衡から求める方法が有効であろう。
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図3 VI 6090.21とSiI 6091.92の例 |
表1 有効温度・表面重力加速度の測定結果(※については有効温度を変化させた)
Star |
Line Depth |
Hβ―C0 |
Logg(Hβ―C0) |
Logg(CaII8498) |
A型星 |
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HD74272 |
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7500K |
2.2 |
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HD97534 |
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5900K(grid外) :輝線影響 |
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HD73634 |
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7400K |
2.0 |
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HD81471 |
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6500K(grid外):輝線影響 |
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HD80404 |
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450K |
2.0 |
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F型星 |
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HD75276 |
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7100K(grid外) |
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HD74180 |
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6200K(grid外) |
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HD108968 |
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6700K |
3.1 |
1.5※ |
HD54605 |
6316K |
6400K |
2.5 |
1.1 |
HD101947 |
6243K |
6400K |
4.0 |
1.4 |
γCyg |
6127K |
6300K |
2.6 |
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G型星 |
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HD174383 |
5861K |
データなし |
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1.4 |
HD154365 |
5647K |
データなし |
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1.5 |
HD97082 |
5659K |
データなし |
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1.25 |
HD204075 |
5237K |
grid外(C0に問題) |
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2.0 |
HD125809 |
4737K |
6100K(grid外) |
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1.0 |
5.表面重力加速度の決定
一回電離したCaによる、この吸収線は圧力によってその線輪郭を変化させる。恒星の大気では、圧力は表面重力加速度によるので、この吸収線輪郭から表面重力加速度を推定できる。重力加速度が大きい場合には、線輪郭のウィングは狭く、重力加速度が小さい場合にはウィングは広くなる。図4にHD97082(G1Ia),HD80404(A8Ib)で実際に測定した例を示す。(HD80404については文献1992ApJS…256
Luck et alの値Teff:7500K、logg:1.4から)しかし、A型星については今回フィッティングが合わず結果は記さなかった。原因はコンティニュームの決定に関する問題が考えられる。
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図4 CaII 6498の線輪郭 |
図5 A型星HD80404のCaII6498線輪郭 |
6.今後の課題
今後は、今回決定できなかったA型星、F型早期の恒星について温度決定を行い、図5に示すような吸収線を用いてC,N,O等の組成決定を試みたい。
また、大気の深さによるミクロ乱流速度の違いが見えている可能性もあるので、それについても追求していきたい。