加藤賢一 データセンター                                                    1999.9.9./2010.2.9.

 

恒星スペクトル線強度計算プログラムWID99Ver.1) (1999)

加藤 賢一

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ダウンロードはこちらから wid99.lzh   1.64MB (ソースファイル、実行ファイル、データファイル)

 

 WID99は星のスペクトル線の等価幅を理論的に計算するプログラムで、片平順一氏・蓮井隆氏によって企画開発された恒星スペクトル線測定プログラム「虹星」と合わせて使っていただくと便利です。WID99の計算結果と観測されたスペクトルを「虹星」で同時に表示させることによって、視覚的にスペクトル線の同定を行うことができ、また元素量について目安を得ることができます。

 

1.WID99の概要

1)パソコン

 Windows95、98機で動きます。2010年現在、Windows XP、Vista 上で動くことを確認しています。

 ソースプログラムはFORTRANで書いていますので、他のプラットホームでもコンパイラがあれば動かすことができます。Windowsに固有のコードなどは使用していませんので、LINUX+g77等で動かすことも簡単です。

2)ファイル構成

 WID99は6つのファイルで構成されています。

 

   ◇ WID99.EXE  − 実行ファイル

   ◇ gf             − スペクトル線の基礎データのファイル

   ◇ ENHN99.DAT −  元素量の調整量を与えるデータファイル

 

   ★ WID99.DOC  − このファイル(の元)

   ★ WID99.f    − ソースファイル

   ★ EQ_WID.99  − 結果見本

 

 先の3つが実行に必要なもので、後の3ファイルが付属ファイルです。

 gfはディレクトリーで、中にgf.35, gf.36, ..., gf.100という名称でgf値がテキストデータとして納められています。

 WID99.EXEとENHN77.DAT、およびフォルダgfはカレントドライブ上に置いてください。

 また、WID77.EXEを実行させると結果を納めたファイル

   ★ EQ_WID.99

をカレントドライブ上に作ります。ただし等価幅が10mA以上の線だけを記録します。

 

2.実行法

 WID99.EXE をダブルクリックします。

 立ち上がると各種のパラメータをキーボードから入力するようにうながされますので、適切な値を入力します。

 

   ◇ 微小乱流速度  − km/s単位で数値を入力

   ◇ 矮星、巨星の別 − 選択

   ◇ 有効温度    − 選択

   ◇ 波長域     − 下限、上限を入力(単位:オングストロ−ム)

 

 結果はファイルEq_wid.99に出力されます。

 途中でストップさせたいときは STOPキーまたは CTRL+C で止めてください。それまでの結果はファイルEq_wid.99に保存されています。

 

3.ファイルの設定

 スペクトル線データファイル gf.34, gf.35, 等とENHN77.DATは使用目的に合うようにユーザーが変更できるファイルです。

 

1)スペクトル線データファイル gf.*

 データファイルgf.*は表1のような形式となっています。

 原子番号.イオン種別、波長(nm)、低レベル側の励起ポテンシャル(eV)、log gf値、出典の順です。

 表1の最初の行に28.01とあるのは原子番号28のニッケルで、イオンの種類が1、つまり中性であることを表しています。26.03は鉄の2階電離イオンのFe IIIということです。

 テキストファイルですので、適当に編集したり、追加してお使いください。

 なおこのデータファイルはKurucz and Bell (1995) から作り変えたものです。

 

表1. スペクトル線データファイル gf.*

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28.01 330.000  3.54 -0.16 K88

26.03 330.004 13.13 -3.00 K88

23.03 330.006 19.97 -0.66 K88

 9.02 330.008 32.10 -0.19 KP

26.02 330.008  8.43 -3.51 K88

24.02 330.008  4.29 -3.79 K88

26.02 330.010  9.41 -1.26 K88

23.01 330.012  2.11 -4.08 K88

60.02 330.014  0.00 -0.58 MC'

58.02 330.015  0.72 -0.05 MC

28.02 330.018 12.22 -4.07 K88

26.03 330.020 15.03 -2.03 K88

29.02 330.021 14.46 -3.39 KP

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2)ENHN99.DAT

 WID99は太陽の元素量データを内蔵しています。それ以外の元素量で等価幅を計算したい場合はその調整量をこのファイルで指定します。太陽に相対的な値を対数で入れて下さい。最終的な値はファイルEq_wid.99 に書き出されます。内蔵の太陽値で使うときはすべて0で埋めておいてください。

 

表2.ENHN99.DAT

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No Elm Enhance   Solar      この行はつけておく

 6  C    0.00

 7  N    0.00

 8  O    0.00

11  Na   0.00

12  Mg  +0.50                        増加させる時は+。対数値で

13  Al  -1.00                          太陽値より小さくしたい時は−

14  Si   0.00

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4.WID99の仕様

  WID99はスペクトル線強度の目安を与えることを主目的にコンパクト化に努めています。ここで簡単にその仕様と適用範囲をまとめておきます。

 

1)平行大気の仮定

 恒星大気は平行(plane parallel)と仮定します。

2)純粋吸収の仮定

 スペクトル線は純粋吸収(pure absorption)により形成されると仮定しています。

3)速度場が入っていません

  原子の熱運動と微小乱流速度は入っていますが、マクロな動きは考慮していません。

ですから外への流れがあるような場合(たとえばBe星のように線が非対象となるような場合)には使えません。

4)単一線のみ

  計算できるのは1本の線だけで、ブレンドや分裂は想定していません。

5)限定された電子粒子供給源

 粒子密度を計算するのに供給源として考慮したのは、H, He, C, O, Na, Mg, Al, Si, S, Fe の10種類だけで、太陽元素量を仮定し、2階電離まで入れました。

 分子を考慮していませんので5000度以下の星には不向きでしょう。

6)限られた連続吸収源

 中性水素の bound-free, free-free,水素負イオン,水素分子、C,Si,Mgの bound-freeを入れています。散乱源としてはレーリー散乱(中性水素と水素分子)、トムソン散乱を考慮しています。

 限られていますので、WID99は中程度の温度の星向けということになります。

7)ダンピングは古典値の5倍

 元素量解析ではダンピングに細かな気配りが必要ですが、ここでは簡単化のために古典的ダンピング係数の5倍を一律にとりました。ですからダンピングが効いているCa線のような強い線では正確な結果は期待できせん。

8)depth-pointの数

 Kurucz(1979)は40点で与えていますが、半分の20点にしました。計算速度を上げるためです。

9)線輪郭を19点で

 等価幅は恒星大気表面での放射流束(surface flux)を直接計算して求めています。

 この際、波長範囲は線中心からウイングを越えて連続部に至るまでとし、それを19個の波長点で近似しました。

10)線輪郭計算の簡略化

 上記波長点の選択は線強度に依存し、弱い線では細かく、強い線では粗くとるようにしています。しかし最初は線強度が不明ですから、逐次近似的に求めなければなりません。ここでは計算速度を上げるために3回の繰り返しで終了しています。ですから10mA付近の弱い線、400mAを越えるような強い線では不正確な値を出すかも知れません。

 

5.その他の制約など

1)モデル大気

  30000、 20000、 15000、 10000、 9000、 8000、 7000、 6000K の8種類の有効温度に対し、それぞれ2種類の表面重力加速度の異なるモデル大気を内蔵しています。もとのデータはKurucz (1979) です。

 分配関数の精度からは25000度以上ではやや不正確になるかも知れません。

2)表面重力加速度 log g

  矮星、巨星の2種類に対応しています。他はKurucz (1979) にあります。

3)元素量

 大気モデルは太陽元素量で計算されたものです。他はKurucz (1979) にあります。

4)扱える元素

 次の39種類だけです。マンパワー不足で分配関数を入力できていないからです。

 

        6 C       7 N       8 O      11 Na     12 Mg     13 Al

       14 Si    16 S      17 Cl     20 Ca     21 Sc     22 Ti

       23 V      24 Cr     25 Mn     26 Fe     27 Co     28 Ni

       29 Cu     30 Zn     38 Sr     39 Y      40 Zr     46 Pd

       56 Ba     57 La     58 Ce     59 Pr     60 Nd     62 Sm

       63 Eu     64 Gd     65 Tb     66 Dy     68 Er     69 Tm

       70 Yb     71 Lu     80 Hg

 

5)扱えるイオン

 上記元素の中性(I)と1階電離イオン(U)だけです。分配関数が正しく対応できないためです。

 

6. プログラムの構成

 ソースプログラムは FORTRAN で書いてあり、1600行ほどです。

主プログラム

以下、サブルーチン群

 

    MODEL                     ---  大気モデルの選択

   BLOCK DATA                --- 原子データ内蔵部

      FEUTRR                    --- 表面放射流束の計算

      INTEG  - PARCOE           ---  数値積分

   HOKAN                     ---  補間

   STATE                     ---  サハの電離式、粒子密度

   OPCNT-                    ---  連続吸収係数

            |- ABHYD - GAUNT    ---  水素原子の吸収係数

       |- ABNEGH           ---  水素負イオンの吸収係数

       |- ABCAR            ---  炭素の吸収係数

        |- ABMET            ---  Si, Mgの吸収係数

       |- H2PLOP           ---  水素分子の吸収係数

    OPLINE-                   ---  線吸収係数

            |- VOIGT            ---  Voigt輪郭

            |- PART             ---  分配関数

 

7. 参考文献

Kurucz, R. L. 1979, Astrophys. J. Suppl. 40, 1. --- 大気モデルはここから

Kurucz, R. L., Bell, B. 1995, KURUCZ CD-ROM No. 23, Atomic Line List, Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics

 

残念ながら日本語で読める文献はあまりありませんが、次が参考になるでしょう。

 

原子スペクトルと原子構造、1964、ヘルツベルグ著堀健夫訳、丸善

現代天文学、1968、ウンゼルト著小平桂一訳、岩波書店(その後、新版あり)

現代の太陽像、1978、ギブソン著桜井邦朋訳、講談社

恒星の世界(現代天文学講座6)、1980、小平桂一編、恒星社厚生閣

宇宙を観るU、1991、横尾武夫編、恒星社厚生閣

 

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1999.9.9.

WID99(V.1):恒星スペクトル線強度計算プログラム

制作:加藤 賢一 (大阪市立科学館,大阪市北区中之島4ー2ー1)

kato@sci-museum.jp

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